2019-06-01 10:00:00
2016年に「ポケモンGO」が大流行し、「AR技術」という言葉を耳にした人も多いのではないでしょうか。「ポケモンGO」の流行の収束に伴い、耳にする言葉も減ってきましたが、その後もブレイクし続けているカメラアプリ「SNOW」も実はAR技術を用いているのです。
このようにAR技術は着々と私たちの生活に浸透してきています。私生活だけでなく、様々な業界の現場でも利用され、これまで解決されてこなかった課題の解決に貢献しているのです。
今回の記事では、ARが活躍している15の分野について具体的な活用事例をまとめています。
ARが実は私たちの生活を支えていることを理解し、ARの最新技術を見ながら近未来への旅へと出かけましょう。
◆ARとは?
そもそもARとはなんなのでしょうか。
ARとは「Augmented Reality(オーグメンテッド・リアリティー)」の略で、日本語でいうと「拡張現実」を意味します。現実世界にコンピューターで作成したCGなどを重ねる技術のことです。現実空間と仮想空間を組み合わせる「MR(mixed riality)」の一つです。
超人気マンガ「ドラゴンボール」に登場する「スカウター」や超人気マンガ「名探偵コナン」に登場する「追跡メガネ」もARの技術を使っています。子供の頃に憧れたアイテム達が、今や科学の力で実現される時代になってきているのです。
◆ゲーム
ゲームの分野では「ポケモンGO」が最もメジャーですが、実は世界で「Ingress(イングレス)」というゲームが大流行しているのをご存じですか?
Ingressは、プレイヤーが青と緑のチームに分かれて、実際の地図、つまりは現実世界で陣取り合戦をしていくゲームです。陣地を取るには「ポータル」とよばれる拠点を三角形で作っていきます。実は開発会社のナイアンティック社は「ポケモンGO」の開発会社でもあり、「Ingress」で培った技術と知見をポケモンGoにも活かしたようです。ポケモンGoより本格的なARゲームが体験したい人は日本でもプレイ可能なIngressで遊んでみてはいかがでしょう。
◆カードゲーム
ゲームはゲームでも、カードゲームにARを組み込んだ「ジェネシス」が世界規模で話題を集めいています。スマホから専用のアプリでカードを通して見ると、カードに対応したクリーチャーの3Dモデリングが浮かび上がって見えるというもの。クリーチャーはスマホで操作可能で、対戦相手とのバトルをリアルタイムで楽しめます。クラウドファンディングサイトKickstarterで資金を集めていましたが、わずか1ヶ月で5万豪ドル(約550万円)を調達した話題の最新型ゲームです。日本に上陸するという情報はまだないので、今は海外版を購入するしかないようです。
◆伝統芸能
日本が誇る伝統芸能「能」や「歌舞伎」もAR技術によって、私たちにとって馴染みやすいものへと進化しています。
例えば能。同じ伝統芸能である歌舞伎に比べて、派手な演出も少ない上に、ストーリーも長く、登場人物が多いということもあり、能についての決まり事を理解していないとなかなか話しに付いていけません。これまでも音声でのリアルタイム解説はありましたが、能はセリフを節に乗せて伝えるため、イヤホンをしながらの音声解説は相性がよくありません。そこで活用されているのが「AR鑑賞システム」です。ソニーのメガネ型デバイス「SmartEyeglass」を装着して能を鑑賞しているだけで、舞台の進行に合わせて字幕のように解説が現れる仕組みです。鑑賞の邪魔を全くせずに解説がみれるため、能に慣れていなくても舞台を楽しめます。
新しい試みを次々に展開している歌舞伎も、ARによってすさまじい進化を遂げています。幕張メッセで行われた2017年の「ニコニコ超会議」では、「超歌舞伎」と題して、人気歌舞伎俳優の中村獅童さんと、ボーカロイドの初音ミクがARによって夢のコラボレーションを果たしました。ただでさえ最新の映像技術や音響技術で大迫力の舞台ですが、マイクロソフトのヘッドマウンドディスプレイ「HoloLens(ホロレンズ)」を利用して、歌舞伎の新体験を作り上げました。同期コンテンツ配信システムである「DAHLES(ダレス)」を利用し、3Dホログラム映像でニコニコ生放送のコメントや舞台演出とともに歌舞伎を鑑賞する初の試みとなりました。
今後は日本の伝統芸能だけじゃなく、オペラなど初心者ではとっつきにくい芸術に関しても、鑑賞システムが開発されていくでしょう。
◆美術鑑賞
芸術鑑賞だけでなく、美術鑑賞にもARは活用されています。ARアプリ「Art++(アートプラスプラス)」は、タブレット端末とアプリを利用して、美術館で出展している展示物の情報を表示してくれます。絵画などの作品をただ見て楽しむだけでなく「絵画の背後にある芸術の歴史的重要性を、観る人が理解できるように」という意図で作られました。通常、有名な絵画でも絵の前に立ち止まっている時間は10~20秒が一般的。しかし「Art++」を取り入れた後は、さほど有名でもない作者の作品でも、1分近く止まって見ていることもあるそうです。
現在、美術館の入り口で有料の音声ガイドが配布されているように、近い将来、美術館の入り口でARゴーグルが配布され、視覚的なガイドが受けられる日も近いでしょう。
◆スポーツ
AR技術を用いた新しいスポーツも生まれています。(株)meleapというベンチャー企業が開発している「HADO」。スマホを利用したゴーグルを身につけ、現実空間にいながら仮想のモンスターたちを倒していきます。同社はHADOをテクノスポーツと名付け、対コンピューターだけでなく、対人戦も行えるシステムも作っています。HADOは世界大会も行われており、爆発的に競技人口を増やしています。
◆スポーツ観戦
ド迫力なプレイを間近で見たいスポーツ観戦はAR技術と相性抜群です。マイクロソフトは同社の製品であるホロレンズを使った、近未来のNFL(アメリカンフットボールリーグ)の楽しみ方を提示した映像を発表しました。
特大のスクリーンで試合を視聴したり、テーブル上に試合フィールドを出現させて観戦したりしています。ジェスチャー操作によって自在に視点も操作できるので、自分の見たい場面をアップで見られます。他にも試合のデータをリアルタイムで表示しているシーンもあります。選手にセンサーを装着することで、走行スピードやタックル時の衝撃をリアルタイムで表示されます。野球などではボールの速度が即座に表示されますが、それがアメフトでも可能になるのです。一番インパクトがあったのが、選手のホログラムが壁を突き破って目の前に現れるという演出。アメフトの演出は派手なものが多いので、AR技術によってさらにド派手になっていくことでしょう。
ARによって観戦方法が変わるのはアメフトだけではありません。サッカー・バスケなど決められたフィールドで行われるスポーツはもちろん、マイクロソフトはゴルフでの技術適応も発表しています。ホログラムによって、コース全体を俯瞰できたり、ショットの軌道を表示することも可能です。一人だけでなく、複数の選手のショットを比較して表示できるため、どの選手が調子がいいのかも一目瞭然です。まだまだ実現には課題がありますが、ホロレンズは既に開発されていますし、3Dのスポーツ観戦が当たり前になる日はそう遠くはないかもしれません。
◆教育
AR技術は教育現場に取り入れられ始めており、退屈な勉強の場を創造的で刺激的な空間にしてくれています。主に教科書を出版している「東京書籍」では「教科書AR(iOS,Android)」というアプリと連動した教科書を開発しました。2Dの教科書ではイメージしづらかった、建築物や図形、生物の構造などを、アプリを通して立体的に理解できるようになります。数学においても、教科書ARを利用すればこの立体の展開図がなぜこうなるのかが一目瞭然で分かります。スマホやタブレットを教科書にかざせば即座に反応してくれます。
◆技能訓練・シュミレーション
AR技術が活躍するのは子供の学び場だけではありません。様々な業界の教育や訓練の現場でAR技術が用いられています。例えば、運転士の中で最も難関と言われる飛行機のパイロットの訓練の現場では、実際の機体を利用して訓練する機会を作るのが難しいという課題がありました。これまではシュミレーション装置を使ってより本番に近い環境を作っていましたが、高価なシュミレーション装置をパイロットの人数分揃えるのは現実的ではなく、紙に計器類や各種スイッチの名前を書いて、壁に張るなどして機器の配置を覚えていました。
そこでJALとマイクロソフトが共同開発したのが、HoloLensを使った訓練用のシュミレーションツールです。現実の空間にホログラムでコックピットが浮かび上がらせ、計器やスイッチの位置を精細に覚えられます。ARの良い所は、透過グラスのため、自分の手が認識できるところ。また、教科書や書類と照らし合わせながら見れるため、学習効果も高いのです。さらに、パイロットだけでなく整備士用の訓練ツールも作り、教科書では分かり辛かったエンジンの構造や、燃料の流れ方なども感覚的に覚えることができます。面白いのは、HoloLensの視線を認識する機能を利用して、ベテラン整備士がどのような視線の流れで点検を行っているかを体感しながら学べる点です。
◆観光
少子化が騒がれる中、観光業界は訪日外国人をターゲットに様々な観光サービスを提供していますが、AR技術は直観的に日本を楽しんでもらうのにピッタリな技術と言えます。例えば凸版印刷(株)が開発した「ストリートミュージアムアプリ」はGPSと連動されており、アプリを起動して端末を城跡などにかざすと、かつての美しい姿の城を楽しむことができます。2017年2月には「江戸城」「和歌山城」「福岡城」「肥前名護屋城」「高松城」「屋嶋城」の6つの城が対象でしたが、今後拡大していくようです。
冒頭に触れたARを利用したゲーム「ポケモンGO」が実は観光業界に多大な貢献をしていたことは知っていましたか?東日本大震災や熊本自身で大きな被害を受けた「宮城県」「岩手県」「福島県」「熊本県」は、ポケモンGOの開発・運営を行う米ナイアンティック社と連携して、ポケモンGOを利用した被災地の復興プロジェクトを企画しました。被災地に期間限定でレアポケモンを出現させることで、観光客の誘致を図ったのです。イベントは大いに盛り上がり、その経済効果は20億円以上とも言われています。
◆地図・ナビ
今やGoogleマップは生活の必需品と言っても過言ではないと思いますが、Googleマップを使っても目的にたどり着けないという経験がある人もいるのではないでしょうか。地図上で現在地を確認しても、目的地とは別の方向に向かってしまったり、曲がる場所を間違えてしまったりという経験は多いと思います。そんな人にオススメなのが、AR技術を使ったナビゲーションアプリ「MapFan AR Global」。GPS機能と連動し、目的地を設定してスマホを道路にかざせば、目的地までの道のりを示してくれます。歩行しながらスマホを使うことになるので、自転車や自動車には気を付けなければなりませんが、これならどんな方向音痴でも道に迷うことはないでしょう。日本でも使えます。
◆広告
AR技術はアナログな紙広告の可能性も大きく広げています。印刷会社である八光社は「AR印刷」という技術を開発しました。ステッカーや名刺などにARマーカーとしての画像を登録しておいて、ARアプリ「COCOAR2」で読み込むとオブジェクト(動画やサイトなど)を表示するという仕組みです。QRコードにも似たような手法ですが、QRコードのように全体のビジュアルを崩すことなく、自然にPRの幅を広げることができます。
日本人の代表がイギリスで創業し、海外で高い評価を得ている「kudan株式会社」は、ARに欠かせないARエンジンを開発しています。ARマーカー不要で高い画像認識を持つkudanのARエンジンは、国内の大手企業からも注目を集め、広告業界大手の博報堂と提携をしています。高い空間認識能力により、実寸大での表示や実際の道路に固定した表示も可能にしました。近づくと大きくなったり、車の中も覗けるなどこれまでにない体験を可能にしたのです。
◆ショッピング
車や家具など大型の商品は買った後のことがイメージしづらいため、購入前に悩むことも多いでしょう。購入後のことをARでシュミレーションすることで、販促に利用する企業も増えてきました。スウェーデンの人気家具ブランド「IKEA」ではカタログと専用アプリを利用して、部屋の中に家具を映し出すことができます。サイズ間違いや、部屋に置いてみたらイメージと違ったといったミスリードが減るため購入を決断する大きな後押しになります。
ファッション業界でもARによってショッピングが変わってきています。印刷会社の凸版印刷が開発したバーチャルフィッティングサービスでは、サイネージ(電光掲示板)の前に立つと自分の性別や年齢など、顧客に合わせたファッションを提案してくれます。サイネージだけでなく、スマホでも利用できるので、今後普及する可能性は高いかもしれません。
◆物流
我々が普段目にすることのない物流の現場でも、AR技術によって業務の効率化が進んでいます。大量の配送物が集められる倉庫では、配送先によって荷物などが分けられますが、現在は紙やタブレットに書かれた情報をもとに仕分けています。荷物と紙の間で目を行ったり来たりする必要があるため、どうしても時間のロスが生じてしまいます。ARゴーグルを身につけて仕事をすれば、荷物を認識した瞬間にどこに仕分ければいいかナビゲートしてくれるため、作業効率がぐっと工場します。しかし、ARゴーグルは長時間ストレスなく身に付けられるとはまだまだ言えないので、普及するにはもう少し時間がかかりそうです。
倉庫内だけでなく、実際に荷物を届けるドライバーもAR技術によって恩恵を受ける時代が近づいています。大量の荷物を様々な地域へ運ぶドライバーは、どの順番で荷物を運ぶのかというのは、それまでの勘と経験によって決めています。そのためベテランと新人では作業効率に大きな差が生じているのです。ARによってトラックのフロントガラスに「積載荷物の保管状況」や「車両の稼働状況」「ルート案内」などが表示されれば、新人でも最も効率の良いルートで荷物を届けることができるのです。
◆医療
1秒を争う医療現場でもAR技術により仕事の効率化が求められています。NECが開発した「ARm keypad Air」はその名の通り、腕(arm)にARでキーボードを映し出す商品です。専用のARグラスと時計型のデバイスを身につけることで、どこでもハンズフリーで作業が行えます。 無菌状態での作業が必要な医療現場では腕への接触がNGなため、非接触やジェスチャーでも利用できるこの技術が大いに役立っています。
◆建設・製造業
大量の情報を基に建築物や工業製品を作る現場では、細かい情報を得るために担当者に確認したり、タブレットなどに目を通す必要がありました。しかし、「スマートヘルメット」と呼ばれる、ARゴーグル付きのヘルメットを利用すれば、作業を邪魔せずに必要な情報を瞬時に得ることができます。グラスに映し出せる情報は「設計図」や「作業に必要な材料」だけでなく、「作業時に注意点」などマニュアルなども表示できるため、作業ミスや事故の削減にもつながります。